11月10日金曜日の夜、渋谷のSpotify O-EASTにて「THE BASS DAY LIVE 2023」初日が行われた。
2013年にJ-WAVEの番組企画に端を発し、クラウドファンディングで集まった有志たちによって、2014年に日本記念日協会から記念日として正式制定された「ベースの日」。9年目を迎える今年は、2015年より行われている「THE BASS DAY LIVE」が4年ぶりに、初の2DAYSに拡大して開催された。
トップバッターとなる1組目のホストベーシストは、須長和広。
安ヵ川大樹/Woodbass、古賀圭侑/Woodbassと共に登場し、思わず耳を惹きつけられるウッドベース3本のあたたかくも芯のある音色で、クイーンの「Don’t Stop Me Now」をカバー。「コントラバス(ウッドベース)3人って、思っていたベースと違うじゃん!ってなりましたか?」と須長自身が言っていたように、想像を超えたベースという楽器の幅広い魅力を、初っ端から感じさせてくれるパフォーマンスを披露した。
「君が優しい低音でいつも、僕を慰めてくれてくれるから。君なしでは生きていけない。ここにいるみんなが君を愛おしくて仕方がない。今日は2023、ベースの日。」
ベース・トリオが「ニューシネマパラダイス」を奏でる中、突如として休日課長/Bassがベースへの愛を綴った詩を朗読しながら登場。会場はざわつきとともに笑いに包まれる。
4人のベーシストが揃ったところで、ウッドベース・トリオとエレキベースでRed Hot Chili Peppersの「Suck My Kiss」を演奏し、会場を低音の渦で巻き込んだ。
ラストにザ・ビートルズの「Lady Madonna」を披露し、同じ「ベース」でも奏法や楽器の違いによる音色や表現のバリエーションの豊かさを存分に魅せてくれた。
続いては先ほどと打って変わって、中央に一筋照らされたスポットライトのもと武田祐介(RADWIMPS)が登場。
ソロでバッハの「無伴奏チェロ組曲」を演奏するという新しいスタイルで、途中にMCを挟みながらのおよそ30分間のステージは、静寂の中を澄んだ風が吹くようにベースで奏でるメロディーが響き渡った。
普段は5弦ベースを持つ武田だが、11(月)11(日)を4弦に見立ててベースの日であることから、本公演のためにソロ演奏に適したアコースティック感の強い、新しい4弦ベースを特注したという。滑らかな手つきで奏でられるその特別なベースの温厚な響きに加え、優しく弾かれる中高音域の一音一音に会場は息を呑んで耳を傾ける。
冒頭で、「今回はゲストは迎えず、特に派手なことはしないので、トイレ休憩のBGM程度にお付き合いください」と会場を和ませていたが、いざ演奏が始まると武田の丁寧で緻密なプレイから奏でられる美しい音色が作り出す、粛然たる空間へと誰もが引き込まれていった。
“ベース・ソロ”という新しいベースの魅力を存分に感じられる贅沢すぎる時間であった。
次はまたガラリと雰囲気を変え、ステージいっぱいに広がる打楽器を挟んで、井上幹(WONK)/Bassと秋田ゴールドマン(SOIL&”PIMP”SESSIONS)/Woodbassがダブルベースでセッションをスタート。
秋田がアコーディオンのような「ファー」という複数の音が空気によって出るインドの民族楽器“シュルティボックス”を使い、それを合図に舞台の両端からシンバルを鳴らしながら川村亘平斎(滞空時間)と角銅真実が登場。
見たことのない楽器、聴いたことのない音に観客は興味津々。民族衣装のような装いを身に纏った川村が呪文のような、ラップのような言葉を口ずさみながらガムランや打楽器を、角銅がマリンバや民族楽器のパーカッションを、秋田がウッドベースとドラを、そして井上がそのカオスな中で一人黙々と音楽の芯となるエレキベースを担う。
アドリブなのか、そうでないのかわからないが、すべてのサウンドが調和し、確かな音楽を奏でる。
ジャンルを超えた自由なセッションの中で繰り広げられる独特のリズム感、サウンドの多様さに徐々に惹かれ、どこでもない国の異国情緒に誘われるように、思わず体が動いてしまう。
秋田の「こんな感じです(笑)」と言うセリフでセッションを終えると、会場は拍手喝采に包まれた。
セッション後のトークで語った井上の言葉通り、まさに「本質的な音楽の会話」を実現させた、ベースという楽器の更なる魅力を開拓した、スケールの大きな至高の時間であった。
この日のトリを飾ったのは草刈愛美(サカナクション)率いる、YonYon/DJ・Vo、mabanua/Drumsの3人。
YonYonによるマーティン・ルーサー・キング牧師の名演説のサンプリングから始まるヒップホップサウンドに、草刈の力強いベースが重なる2人のパフォーマンスからセッションがスタート。
からだの深くに響くベースの音にのせられたYonYonと草刈の柔らかく囁くような歌声の心地よさに、観客も高揚していく。
MCを挟んでmabanuaが加わり、この日のために制作したという新曲、透明感のあるサウンドと歌詞が印象的な草刈作の「Iris」と、アップテンポでポップなサウンドに平和を願うメッセージをこめた歌詞のmabanua作「Pray for Peace」を披露。
この3人の感性の交差でしか生まれなかったであろう音楽が、特別な空間を作り上げていた。
さらに「サカナクションのベースのソロが入っているアレをやります」という草刈の言葉を合図に、「忘れられないの」のワンフレーズを披露し、会場はヒートアップ。
最後には草刈のシンセ・ベースに導かれ、YonYonの甘い歌声、mabanuaの優しくも芯のあるドラムで「新宝島」を演奏し、いつもとはまた違う表情で味わう名曲に、会場は最高潮の一体感と盛り上がりをみせた。
演奏を終えて歓声と拍手が沸き起こる中、MCクリス・ペプラーとのトークコーナへ。草刈はベースの魅力を「色んな人と繋がって音楽を作っていける楽器。ベースに出会えて幸せです。」と語った。
ベースは「言葉だけでは繋がれない誰か(何か)」と、音を通してコミュニケーションができる楽器なのだというメッセージが、この日の4組のステージを通して届けられた。
「ベース」という入り口から、ここまで幅広いジャンルの音楽を感じられる場は他にはないのではないだろうか。
転換の合間に繰り広げられた各ベーシストのトークも会場を大いに盛り上げた。特に各ベーシストたちが”ベースのあるある”をテーマに読んだ川柳は、ベーシストならではの心情が端的に表現され、会場を温かい笑いで包んだ。
こうして、ベースのサウンドや楽器としての魅力を様々な角度から攻めた「THE BASS DAY LIVE 2023」1日目の公演は大盛況で幕を閉じた。
Report 中島初穂 Photo ヨシハラミズホ